中小企業の組織・人事領域の課題では、人材の確保が特に多く挙げられています。企業の課題に「地域の人事部」がどのように応えているのか、実際に人材の確保のため「地域の人事部」を利用している企業へのインタビューでご紹介します。
鹿児島県鹿屋市を中心に「地域の人事部」として活動している「株式会社ワークデザインラボおおすみ」では、地域企業と首都圏の複業ワーカーとのマッチングをコーディネートしています。2025年度には経営人材・幹部候補にあたる「右腕人材」のマッチング事業を行いました。
鹿屋衛生管理センター株式会社は、新規事業の展開に向けて経営に伴走する人材を募るため、ワークデザインラボおおすみが開催した勉強会に参加し、人材のマッチングに至りました。鹿屋衛生管理センター株式会社代表取締役の小式澤郁さんと、複業で同社の経営に携わるようになった下川路 兼一さんにお話を伺いました 。
鹿屋衛生管理センター株式会社
https://www.kny-eikan.co.jp/
所在地:鹿児島県鹿屋市
創業年:1977年
従業員数:49名
事業内容:浄化槽の維持管理・清掃、し尿収集運搬、グリストラップ清掃、下水処理場の維持管理など生活排水処理全般を担い、地域の公衆衛生と水環境の保全を支える事業

「地域の人事部」のサービス等を利用するまで
――人材の確保・育成・定着について、どんな課題や取組の必要性を感じていましたか。
小式澤さん:
人口減少と若年層の都市部流出により、担い手の確保が年々難しくなっていることに強い危機感を持っていました。加えて、既存事業の維持だけでなく新規事業の立ち上げを検討する中で、それを担う人材が社内に十分いないという現実にも直面しました。専門性の高い人材の採用・育成が追いつかず、挑戦のスピードが制限される状況でした。今後は採用力の強化に加え、社内育成とキャリア設計を通じて、成長戦略を支える人材基盤を構築する必要があると考えていました。
弊社は祖父が創業し、後継ぎがいないということで2019年から経営に加わりました。生活排水の処理というインフラ事業であることからも、地域の人口減少に伴って売上も減っていく傾向にあります。このため新規事業の必要性を感じていましたが、私一人で意思決定から推進まで担うことには限界がありました。また、新規事業の立ち上げにおいては、既存の社内知見だけでは対応しきれない領域があると認識していました。
――「地域の人事部」のことを知り、利用するに至った経緯を教えてください。
小式澤さん:
ちょうどワークデザインラボおおすみが実施する「地域の人事部」において、「自然資本を活かした企業でのネイチャーポジティブキャリア」※というテーマで右腕人材を募集できる取り組みがあることを知りました。弊社は環境事業を主力としており、事業内容そのものがネイチャーポジティブと密接に関わっています。その理念や方向性と高い親和性を感じ、自社の新たな挑戦を共に担う人材と出会える可能性を期待し、サービスの利用を検討するに至りました。
(※)ネイチャーポジティブ:生物多様性の負(損失)の流れを止めて正(回復)に反転させること
右腕人材には、経営について幅広く、特にM&Aやスタートアップへの投資についても相談できることを求めていました。右腕人材の候補者にあたる方々が参加する勉強会の場で、特許の取得や海外への展開を進めている浄化槽の遠隔監視や、下水汚泥の循環利用による農業および食品加工業という二つの新規事業を紹介し、私が描いた絵の解像度を上げて一緒に進めてほしいというメッセージを伝えました。

「地域の人事部」のサービス等を利用して
――「地域の人事部」を通じて、どんなことに取組みましたか。
小式澤さん:
「地域の人事部」の仕組みを活用し、都会の大企業で活躍されている下川路さんを複業人材として迎え入れました。下水汚泥を活用した事業で、農作物の栽培や、収穫した農作物を使った食料品を販売していくという出口戦略まで含めた事業構想について、オンラインやオフラインで定期的に議論を重ね客観的な視点からブラッシュアップしてもらっています。
下川路さん:
首都圏にあるシステムインテグレーターの企業で、オープンイノベーションの事業を担当しています。もともと地縁のある鹿児島県を中心に、地方の事業に貢献したい気持ちがあって「地域の人事部」の勉強会に参加しました。小式澤さんが始めようとしている事業の社会的意義への共感や、これから始めようとしているタイミングの良さもあって、右腕人材として応募しました。以来、小式澤さんの壁打ち相手として、事業運営について日々考えています。例えば、栽培した野菜を使った食料品を販売するという事業の過程で、補助金を活用したマネタイズができないかといった視点を交えて企画しています。本格的に事業が動き出すのはこれからですが、地域で作った商品を売り出していき、新しい事業の柱にしたいと考えています。浄化槽の遠隔監視と同様に、海外への展開も目指していきたいと考えています。
小式澤さん:
同時に社内では、既存事業の強みや課題を整理し、将来の成長領域を明確化するようにしています。また中長期のロードマップや推進体制を整備し、外部人材の知見を実装できる基盤づくりにも取り組んでいます。
――取組を通じて、どんな点にメリットを感じていますか。
小式澤さん:
「地域の人事部」のサービスを利用したことで、これまで自社の採用活動だけでは出会うことが難しかった多様なバックグラウンドを持つ人材と接点を持つことができました。特に都市部で活躍されている専門性の高い複業人材と関わることで、新規事業の検討や事業の進め方について新しい知見や視点を取り入れることができ、大きな刺激となりました。また、外部人材との協働を進める過程で、自社の取り組みや事業内容を改めて整理し言語化する必要が生まれ、社内の情報共有や方向性の確認にもつながりました。単なる人材マッチングにとどまらず、組織の成長や事業のブラッシュアップの機会となった点に満足しています。
下川路さんは、本業もあるため弊社の事業にばかり関わってもらうのは難しいですが、事業の入口で非常にスムーズに加わってもらうことができました。こうした機会を得られたことで「地域の人事部」には感謝しています。事業の解像度を上げていくという点でも、こんなことをやりたいというぼんやりとした思いを、現実的な計画に落とし込む検討が進んでいます。右腕となる伴走者ができたおかげで、非常に助かっています。
下川路さん:
ふだんは私が所属する会社の事業を、社外のスタートアップなどが持つ技術力を活かしてどのように広げていくか、という視点で仕事をしています。一方で小式澤さんは新しい事業をやろうとしている、スタートアップの側に近い立ち位置です。その点で本業とは全く逆の立ち位置になるので、そうした視点の違いを活かしながら、一緒に事業を進めていきたいと思っています。
小式澤さん:
他にも副次的なメリットとして、ここ数年は「地域の人事部」のイベントに参加するなど社外の複業人材との接点を考えてきたので、ホームページの作成など弊社の情報を発信することも進みました。そのことで、従業員も会社が変わろうとしていることに刺激を受けて、活発化していると感じています。

「地域の人事部」に対する今後のご期待
――今後利用したい「地域の人事部」のサービスや、期待していることを教えてください。
小式澤さん:
今後は、人材の採用支援に加えて、幹部候補や将来の経営を担う人材の育成につながるようなプログラムの充実を期待しています。中小企業単独では実施が難しい経営人材育成の機会や、HR分野の最新トレンドを学べる勉強会・交流の場があれば積極的に活用したいと考えています。また、地域全体の採用力向上に向けて、若者のUターン・Iターンを促進する仕組みづくりや地域企業の魅力発信など、広域的なブランディング活動にも期待しています。企業単位だけでなく地域全体の人材基盤を強化する取り組みとして、今後の発展を期待しています。
2年前に社長に就任したばかりですが、バトンを次世代にどう渡せるか、誰が社長に就いても戦える組織づくりをするにはどうしたらよいか、と考えながら経営しています。そのための経営人材や幹部の候補を社内だけで育てていくことは難しい面もあり、地域でこうした人材が育っていくような取組にも期待しています。
